エッセイ 政治と暮らし     エッセイトップへ>>>

第7回目
政治と暮らし
――愛と党に生きるセレブな幹事長――
鳩山由紀夫

鳩山由紀夫さん
女性的にすら見える
温厚で上品な振る舞いで、
いわゆるギラギラドロドロした
政治家のイメージと
最も遠いところにいるのが
鳩山由紀夫さんだ。
指に光るリングは
最愛の奥様との結婚指輪。
「略奪愛」だった奥様との
出会いのエピソードから、
ふだんの暮らしぶりまで、
ジェントルマンの素顔を
たっぷりと話していただきました。

鳩山由紀夫さん実はイビキがすごい
無呼吸症候群らしい!?

井形 今日は政治の話を極力なしにして、鳩山さんの人となりが伝わる質問をしていきたいと考えています。政界のサラブレッドがどうのという質問は、もううんざりでしょうし(笑)。
鳩山 はは……私は政界の道産子ですからね。
井形 今朝は何時に起きられたんですか?
鳩山 ゆっくりしてましたよ。7時です。
井形 7時でゆっくりなんですか?
鳩山 前日は5時起きだったんで。わりと朝早く起きるのは得意なんです。血圧高いんでよくないんですけどね(笑)。
井形 睡眠時間はいつも何時間ぐらい取られてるんですか?
鳩山 5時間か6時間。7時間以上寝られることはほとんどないんですけど……女房にいつも言われるんですよ、イビキがうるさいって(笑)。どうもね、今よく言われる無呼吸症候群らしい……。あれ、自覚ないんですよね。
井形 そうなんですか。
鳩山 それにベッドに入った瞬間に眠ることができる。
井形 それはうらやましいですね(笑)。
鳩山 女房からしたら恨めしいでしょうね。私はすぐ眠ってイビキをかくわけで、女房はうるさくて起こされちゃうわけだから。
井形 ところで、今朝は何を召し上がってらっしゃいましたか?
鳩山 パンとサラダ。女房の(作った)サラダなんですけど。水ナスのおつけものをサラダの中に入れて、レタスとキュウリとトマトと……それをドレッシングで食べると美味しかったです。
井形 奥様の手作り?
鳩山 そう。女房は、ふつうの料理じゃ面白くないんでしょうねえ。だからおつけものを入れたりしてみる。けっこう合うんですよ。美味しかったですよ。
井形 朝はいつも召し上がってらっしゃるんですか?
鳩山 食べる日のほうが多いです。ただ、朝は8時ごろから党の会議ってことが結構あってね、そのときおにぎりが出るんですよ。ちなみに自民党時代にはね、あじの干物とか鮭の切り身とか。まかないが党についてるわけですよ。食事しないで行って向こうで食事するのが習わしになっていましたけど、民主党の場合はそういうのは出ないから。おにぎりをね、パックに入ってるやつとかを買っていったりして、それを食べる。ずいぶん(自民党とは)違うわけなんです。それで自民党に行かれちゃったら困るけど(笑)。
鳩山由紀夫さん井形 朝ご飯ぐらい党の経費で何とかならないんですか?
鳩山 朝から食事もせずに議論すると、みんな頭に血が上って厳しいことばかり言うわけです。ですから、このたび党にワンフロア増えたものですから、そこにまかないを入れろと主張してるんですけどね。だけど、私の意見というのはたいてい採用されない……(笑)。
井形 そうなんですか?
鳩山 大体そうです。なんでこれで幹事長なんだ? って話ですけど(笑)。

彼女がいなかったら
政治家になってない

井形 奥様の話が出たのでうかがいますが、奥様は確か宝塚出身だとか。
鳩山 らしいですよね。というか、宝塚にいた頃にはまだ出会っていないのでね。
井形 スタンフォード大学に留学されたとき、アメリカで知り合われたとか?
既婚者の女房を紹介してくれたのは当時のガールフレンド鳩山 いや、正確に言いますとね、向こうに行く前に、私がちょっと付き合っていた女の子、手も握ったことないんですけど(笑)……22のときですかね、私が留学するからということで別れなきゃならなくなった。そこで、その女性から「この人を頼りにして行きなさい」と紹介されたのが、女房だったんですよ。スタンフォード大学と女房がいたサンフランシスコは近かったので、何かあったら彼女を頼りなさいと……だから、ガールフレンドに紹介されて知り合ったということになるんでしょうか。
井形 ガールフレンドに紹介されたんですか?
鳩山 ええ。当時、女房は結婚していましたからね。ガールフレンドのほうも既婚者ならば紹介しても大丈夫だろうと思ったんでしょう。ところが、現実はそうじゃなくて。その結婚している女房とできちゃったという……。いきなり略奪愛の話してもしょうがないですけど。
井形 いや、しょうがありますよ! あの、奥様とお会いになったときの第一印象はどうだったのですか?
鳩山 変わった人だなと思いましたよ。キリッとして、ハッキリとした女性だったのでね。
井形 宝塚では男役だったんですか?
鳩山 いやいや、背が小さいから娘役だったらしいですけど。ちなみに、最初に会ったのは東京の宝塚劇場なんです。ガールフレンドに紹介されたんですけど、そのときは向こうは印象無かったと思いますけどね。
 でも縁があったというのか、偶然じゃないかと思うんですが、留学のために乗った飛行機と、彼女がサンフランシスコに帰る際の飛行機が一緒だったんです。空港で荷物を持ってたら「鳩山君」と呼ばれて。
井形 「君」ですか(笑)。
鳩山 「君」でしたね(笑)。でも名前を覚えていてくれわけですよね、あーと思って。その後もそういう偶然の出会いが何回かありましてね。ちなみに、現地で彼女の家と私との間には50キロぐらい離れてたんですけど、勉強に疲れたからとサンフランシスコにバスに乗って遊びに行ったら、そこでまた「鳩山君」と言われて。今度は彼女は車に乗ってましたね。それで乗っけてもらって……そういうことをいろいろとやっているうちに、あの、いい関係になっちゃいましてね(笑)。
井形 一番、この人を愛しているなと自覚されたのはどんな瞬間でしたか?
鳩山由紀夫さん鳩山 うーん。たぶん、3度目ぐらいに会ったときかな。この人はアメリカの風土にやたら合ってるなと感じたことがあって、観音様みたいな髪型しててね、そんな髪型なんてしてる人いないじゃないですか。非常に印象的でしょ。40年近く前の話ですよ。そうやって知らず知らず惹かれていきながら……。
井形 それで?
鳩山 あるとき当時の亭主から、「ウチの妻は音楽好きなので、サンフランシスコ・フィルシンフォニーを聴きに連れて行ってやってくれ」と言われまして。
井形 向こうから言われちゃったんですね(笑)。
鳩山 元亭主からそう言われて連れて行ったら、小澤征爾なんですよ指揮者が。しかも曲がプロコフィエフの『ロメオとジュリエット』という、すごいいい曲だったんですよ。そこで2人ともグーッときちゃって……。
井形 手を握ったりしたわけですか?(笑)
鳩山 握ったでしょうね(笑)。その日にいろいろと話し込んで、それでお互いに惚れたと思いますよね。
井形 そのときに結婚しようと思ったんですか?
鳩山 思わなかった。だって人の女房だったわけですから。そんな簡単にはいかないな、困ったな……と思いながらも惹かれてしまった。
井形 葛藤ありましたでしょ?
鳩山 ありましたけど……最後はしっかりと別れさせましたけどね。別れさせたというか、幸(ミユキ=奥様の名前)自身が「別れる」と決心して、亭主のところに行って、そうとう色々あったと思いますが、きっちりと別れてきました。
井形 うれしかったでしょ?
鳩山 うれしかったぁ……。でしょうねきっと(笑)。もう昔の話でね。4歳年上なんですけどね、いい女房をもらったなと思います。
井形 結婚されて一番感動されたことってなんですか?
空港、サンフランシスコと再会が続き「鳩山君」と呼び止められ、恋に落ちた。鳩山 たぶん政治家に、彼女がいなかったらなってないね、僕は。背中をポンと押すことができる人なんですよ。
井形 というと……?
鳩山 あるとき「政治家になるかもしれん」と言ったら、「それなら、私はいいマネージャーになりますよ。やんなさい」って言われたわけですよ。普通政治家の女房なんて、いやがるものなんですよ。
井形 やめてくれっていう奥様のほうが多いと聞きますよね。
鳩山 私ども、桂三枝師匠を(立候補に)誘ったことがあるんですけど、本人は「やる」とおっしゃってくださった。けれども翌朝になったら、どうも奥様に黙って「別れの曲」かなんか弾かれたらしくて、離婚だ! と言われた瞬間に断念されたということでした。奥様の意見で政治出馬を断念されるかたはとても多いです。
井形 うかがってますと、奥様はすごくリーダーシップがあって肚がくくれている、ドーンとした女性っていう印象がありますね。鳩山さんのこと、なんて呼んでらっしゃるんですか?
鳩山 由紀夫さんと言ったりお父さんと言ったり……。ちなみに、私はお母さんと。子どもができてからですけどね。ユッキーとかは呼びませんからね、あ、自分でいうことじゃないですね(笑)。

小沢さんも僕も
演説が苦手で

鳩山由紀夫さん井形 民主党というと、悲喜こもごも、いろいろなことが取り沙汰されましたが、そんな中でも鳩山さんはいつも同じスタンスで立ってらっしゃる印象を持っているんですが。
鳩山 悲喜こもごも、まさにその通りですね。私はね、人生と政党は同じだなと思っていて、全部無駄はないと。いわゆるメール問題にしても非常に辛いときがあって、みんな民主党を辞めちゃおうかという時期もあった。でも今回、小沢代表が誕生して、国民の皆さんの期待も高まっている。ギリギリの時期を経てやっと決断できた。正直言うとね、小沢さんを怖がってる人、多かったんですよ。
井形 怖いイメージ、ありましたものね。
鳩山 (この対談に)彼を呼んでくださいよ。かわいい人ですよ。井形さんほどかわいかないけど(笑)。
井形 小沢さんはいっちゃんと呼ばれてるとか。男の人にモテますよね。
鳩山 でしょうね。でも女性にもモテるんじゃないですか。男の人のたくましさ。それがありますよ。一本気で変わらない。そういう強さを魅力だと思うし、その魅力でいま党がひとつになったんです。それまでは火傷しそうだから近くに寄りたくないという雰囲気があった。いま代表になって近くに行ってみて、みんなわかってきたんです。
 ほんとはかわいい人なんです。私もそうなんだけど、彼はシャイなんですよ。
井形 そうでしょうか。鳩山さんとはイメージが違いますけど。
鳩山 たとえばね、ふたりで街頭演説なんかやるじゃないですか。小沢さんが「やだよなー。俺、街頭演説嫌いなんだよなー」とおっしゃるわけです。で、「私も嫌いなんですよ」と(街宣車の)上でふたりでしゃべってるんですよ。
井形 へー、そうなんですか! じゃ、民主党で一番街頭演説が好きな人ってどなたですか?
鳩山 菅さんじゃないですか(笑)。彼はそういうのが好きですよね。そういう人も大事なんですよ。

これからは
もっと怒るようにします

井形 今、企業でも若手の育成に苦労してたりするわけですが、政党も若手議員を育てなきゃいけない。特に民主党には若いというイメージがついてますから。だけど若手の人たちとジェネレーションギャップを感じることもあるんじゃないですか? なんでこんなに常識がないんだとか。あるでしょ?
鳩山 正直に言えばね。ありますよね。竹下登先生がね、私を称して新人類とおっしゃった。その私から見て、今の30代後半から40代の人たちって、新人類ですよね。年功序列がすべていいとは言わないけど、年寄りは年の分だけそれなりの経験をふまえてる。その経験に対するそれなりの敬いを持つべきだ……それが、ないんだよね。
井形 同感、ないですよね!
鳩山 政治家は自分が自分がで勝ってきて、一国一城の主できている。だけどね、党のトップがピンチになったらみんなでカバーして良くしよう、じゃなくて、みんなで足を引っ張って(つぶして)若返りだ、次の時代だってなっちゃう。
 若返りも必要ではあるけど、若さには未熟な部分も必ずあって、それがあのメール問題に出たんですよ。
鳩山由紀夫さん井形 どこが未熟だったと思われます?
鳩山 政治はリクツだけじゃない。いや、リクツが正しければ必ず通るんだという思い込みが激しすぎたということじゃないでしょうか。
井形 人間関係力はどうでしょうか。やはり弱いですか?
鳩山 弱いです。俺がエライ、自分が道を切り開いていく、たとえば、松下政治経済塾では自分がリーダーシップを取るための教育を受ける。謙虚にいなさいという発想じゃない。人間の器そのものを大きく持てよというような教育はされてきていない。まぁ、これは政治だけじゃなく、今の教育全体の問題だと思うけれど。
井形 このヤローって思ったとき、どのように注意されるんですか? 鳩山さんは非常に温厚なイメージがありますが。
鳩山 私の注意は弱いと思われていて、だからこそ(イメージと逆の)「仏の小沢、鬼の鳩山」になればこの党は良くなるぞと自分に言い聞かせてるんですけど、なかなか鬼になれなんですよね。
井形 どうしてですか。
鳩山 この怒りの気持ちをどう伝えるべきかと悩んでいるうちに次の展開になってたりしてですね……。でも、これからは怒るようにします。はい。
井形 渡部恒三さんのときも感じたのですが、温厚な鳩山さんが生き馬の目を抜く政界で生き抜いてこられた、その秘訣はどういったところにあるのかと。
鳩山 橋本大二郎君に言われたんですよ。鳩山がなれるなら俺も政治家になれるだろうと、それで彼は政界に入った。「らしくない政治家をやれ」ってことなんですよ。多分、私はらしくない政治家で、ギラギラしたイメージからはほど遠いかもしれない、押しも弱いし話も下手だし……なんで政治家やってんの? って。
井形 いやそんな(笑)。
鳩山 だけどね、「らしい政治家」がこんなに政治をメチャクチャにしたんじゃないか。らしくない政治家が政治を取り戻せよと。私みたいな人間に国民の皆さんの期待が集まったときにね、政治の変化が起きるんじゃないかと自分では期待してるんですよ(笑)。

何より大切な
1万円の結婚指輪

鳩山由紀夫さん井形 鳩山さんって 何してるときが一番くつろげます?
鳩山 何にもしてないときが一番幸せ。家帰って布団の上に大の字になった瞬間ですよね。次の瞬間、さっきも言ったように寝ちゃってますから、幸せは短いんですけど(笑)。
井形 もし3日間お休みが取れたら何をしたいですか?
鳩山 まず軽井沢に行ってですね、自分なりの思いを書き連ねてみたいですね。
井形 自叙伝ですか?
鳩山 自叙伝じゃないんだけど、自分の考え方をまとめたいと。いつもいろんなこと考えてはいるけど散漫になりがちできているからね。
 そうはいっても3日間休みあったら、たぶん寝てますね(笑)。3日間寝たらかえって疲れちゃうかもしれないけど。
井形 旅行には行きたいと思いませんか?
鳩山 女房に誘われたらきっと行くでしょうね。でも旅行もあれもこれもになっちゃうとかえって疲れたりしませんか。リラクゼーションのために行くのにね。あ、ハワイのポタポタっとやる、なんとかセラピーっていうの……。
井形 タラソテラピーでしょ? 
鳩山 そう、それをやってみたい。
井形 さっきから気になってたんですが、指輪……きれいだなぁって。
鳩山 結婚指輪ですよ。女房がね、「メイシーズ」っていうアメリカの百貨店の宝石売り場で働いてたんです。その縁で買ったものだから、そうとう安く買えました。これは1万円しないぐらいですよ。
井形 三連になってて18金で、すごくきれいで。何だかアンティークみたいですね。
鳩山 そう。でもね、選挙のポスターでは目立つからつけるなとか、挨拶回りのときは外せとか言われるんですけど。
井形 ふだんしている大切なものがないと落ち着かなかったりしませんか?
鳩山 ええ、落ち着かないですよ。それに、なんか悪いことしてるのかと思うじゃないですか(笑)。
井形 奥様の買い物に付き合ったりすることは?
鳩山 よくありますよ。私、スーパーに行くのが好きなんですよ。
井形 鳩山由紀夫だって気づかれたり何か言われたりしませんか。
鳩山 それを気にしてたら生きてられないから。枝豆買ったり、野菜買ったり魚買ったりして帰るのが好きですよね。ふだん休みって半日ぐらいしかないから遠くへ行くわけにはいかない。だからスーパー。「なんか足りないものないの?」って女房に言いながら、スーパーに一緒に行くの。
井形 ほんとに優しい。素敵なダンナさまですね。
鳩山 スーパーが好きなんですよ。でも、デパートは好きじゃないんですよね。何だか疲れませんか? 人いきれでやられちゃう。スーパーにも人が一杯いるのにね。
井形 同感ですね。もし、政治家を辞めたらなにをやりたいですか?
鳩山 坊さんになってるんじゃないですか?
井形 ええ?
鳩山 いやね、私は二度と出てこないんだそうです。輪廻転生ってあるじゃないですか。死んでも次の生がまたあり、生まれ変わるという。でも、あるかたに見てもらったら、「あなたはもう出てこない(生まれ変われない)」と言われたんです。ならば、坊さんになって毎日何も考えず「空」の世界を持てたら幸せじゃないですかね。
井形 なるほど。今日は、質問のたびに出てくる答えが意外なものばかりで、鳩山さんの素顔が分かり嬉しいです。
鳩山 いや、それは井形さんがそういう部分を引き出してくださったから。TV番組でも政策のことばかりで、深い部分を話す機会がなかった。
井形 光栄です。今日はありがとうございました。

 

第11回目
政治と暮らし
――愚直に仕え、静かに愛する――
岡田克也

岡田克也さん元民主党党首であり、実直で誠実、
稀に見る“堅い”イメージで通っているのが
衆議 院議員、民主党の岡田克也さんだ。
休日には奥様と2人で映画を観に行く愛妻家であ り、
帰宅するときには
土産を欠かさない家族思いの父親でもある。
手みやげの饅頭すら差し戻す、
「堅物政治家」が滅多に見せない
普段の暮らしぶりをそっと見せてくれ
た。

17年間の"週末婚”に
ピリオド?

岡田克也井形 岡田さんというと、ダンディーなイメージがすごくあるんですが……。その雰 囲気が中高年女性にも人気が高く(笑)。
岡田 ほんとですか? もっと笑えと言われるんですけどね。
井形 唐突ですが、今朝は何を召し上がっていらっしゃいましたか?
岡田 今朝は人と会う約束がありましたので、ホテルで食べてきました。和食ですが。
井形 ビジネスブレックファーストみたいな感じですか。
岡田 そうです、そうです。
井形 いつも何時ごろ起きられるんですか?
岡田 6時半から7時ぐらいですかね。昔はもっと早かったんですけど。
井形 ご自分で起きるんですか? それとも奥様に起こしてもらう……。
岡田 私は非常に目覚めがいいもんですから、1人で起きてしまいます。家内はまだ 寝てたりしていてもね(笑)。それから基本的には、朝はあんまり食べないんですね。 食べるとしてもパンだとか、そんな感じで。
結婚したとき、妻はまだ大学生で卒業式に親代わりで出たんですよ井形 ずっとご家族は四日市のほうにいらっしゃって、岡田さんは長い間、いわば単 身赴任のような形で東京にいらしたと聞いたんですが。
岡田 17年ぐらい、議員宿舎に一人暮らし状態でしたね。一昨年1年間は、大学生に なった長女と二人で生活し、昨年の春からは、家族全員が出てきて、パターンが変わ りました。やはり帰れば家族が居るというのはいいことですよね。これまでは地元に 帰ったときだけが家族と過ごす時間だったんです。昔は、それでも土・日は地元に居 たんですが、幹事長とか代表になりますと、月に何回かしか帰れないという状況にな りまして。ずっと誰も居ない議員宿舎に帰ってたんですから、そこが全然違いますよ ね。

結婚を決めたのは
「直感」でした

 

岡田克也井形 奥様との出会いを伺ってもよろしいですか。学生時代からのお知り合いだった とか。
岡田 学生時代というか……大学でのサークルの友人の妹だったんですが。知り合っ たときは私はもう社会人で、家内は学生でした。ちなみに、結婚したときもまだ家内 は学生だったんです。
井形 奥様は女子医大でしたよね。おいくつでご結婚されたんですか?
岡田 医大ですから、学生といっても、もう24歳ぐらいだったでしょうか。私が28歳 で。(妻の)卒業式もちゃんと私が出ましたよ。親代わりで(笑)。
井形 うわっ。……なんだかロマンチックな話ですね。では、奥様はお医者さんでい らっしゃるわけですね。
岡田 はい。といっても、現在は主婦業に専念してますが。
井形 医大生だった奥様と岡田さんが結婚したいと思われた一番のポイントは何だっ たんでしょうか?
岡田 そういう質問が来ると思っていました(笑)。でも、それは言葉で説明できる ものではないんでね、あえて言えば「直感」でしょうか。
井形 直感ですか。では、好きなところってどこなんですか?
岡田 なんですかねぇ(笑)。一言じゃ言えないですよ。やっぱり「直感」としか言 えないです。縁というかね。

休みの日には妻と二人で
映画を観に行きます

 

岡田克也井形 これまで何人かの政治家の方とお話しさせていただいて、本当に(政治家とは) 忙しいお仕事だなということがよく分かったんです。そんな中でも、岡田さんはお休 みの時間をお家でご家族と過ごされている気がするんですが。
岡田 地元回りや地方出張でけっこう出かけてますよ。ただ、今は(家族が)東京に いますのでね。時間があるとなるべく家に居たいですね。ちょっと時間ができると、 夫婦で映画に行ったりもしますよ(笑)。
井形 えー、ご夫婦で映画に。デートですね(笑)。
岡田 おかしいですか(笑)。
井形 素敵だなと思いまして。ちなみに、どんな映画を最近ご覧になったんですか?
岡田 つい先日も『君の涙 ドナウに流れ』(2007年ハンガリー映画 監督クリス ティナ・ゴダ)という映画を一緒に観てきたばかりです。私の尊敬している経済人、 オンワードの馬場さんは映画マニアなんです。馬場さんに、この映画は10年に1つの 名作だから、ぜひ見た方がいいと勧められ行ったんですけど、実際に1956年ハン ガリー動乱をテーマにしていてね、非常にいい映画ですよ。ぜひ観たらいいですよ。
井形 それは試写会ですか? それとも一般公開……?
岡田 一般公開です。有楽町のシネカノン、東京ではそこしかやってなかったのです。
井形 ちなみに、行こうという言い出しっぺはどちらなんですか?
岡田 だいたい私です。でも、けっこうドタキャンされることも多いんですよ。(妻 は)気がよく変わるんでね。昨日まで行くと言っていたのに……(笑)。でも、映画 はなるべく観るようにしているものですから。
井形 けれど、そういうところで、「あ、民主党の岡田さんだ」って周りから言われ たり、話しかけられたりすることもあるかと思うんですが。
岡田 ありますね。シネカノンでも、どっかで見たことあるな、とエレベータの中で 言われました。基本的には聞こえないフリしてますが。私は慣れてるからいいんです が、もしかしたら、それもあって(妻は)あんまり(一緒に映画に行くのが)好きじゃ ないんじゃないですか。
井形 映画の前後にご夫婦でお茶飲んだりお食事されたりもするんですか?
岡田 しますよ。その時も外で夕飯食べましたよ。スパゲティを。(シネカノンと) 同じフロアにレストランがありまして、屋外の吹きっさらしの席で食べましたよ(笑) 。寒かったけど(そこしか)空いてなかったので。
井形 そういうときって、どんなお話をされるんですか?
岡田 うーん、子供の話がやはり多いですけどね。それと政治の話もしますよ。映画 によっては、妻だけでなく子供を連れて行くこともありますし。
井形 仲むつまじい光景が目に浮かびます(笑)。私『イギリスの夫婦はなぜ手をつ なぐのか』という本を書いたんですが、日本では熟年離婚、家庭内別居が問題視され ていて、中高年になっても夫婦仲良く付き合っているケースは少ない。夫婦仲良くす る秘訣って、どういうところにあるでしょうか?
岡田 うーん、ずっと週末婚のような状態が長かったですから、毎日会っていたわけ じゃなかったことが、かえって良かったのかもしれない……とは、思いますけど。
井形 なるほどね。やっぱり、ずっと一緒にいたらお互いの粗が見えて腹も立つんで しょうか。
岡田 新鮮じゃなくなるのだと思いますよ。

岡田克也誕生日のケーキ、肉まん
家族には土産を買って帰る

井形 以前、加藤紘一さんがおっしゃってたんですが、地元を守っている代議士の奥 様って、とても大変でストレスがたまるそうなんですね。夫が地元にいないとき、奥 様が支持者の対応を一手に引き受けなきゃいけないわけですから。岡田さんは、奥様 からそういった苦情を聞かされませんでしたか?
岡田 そういうことがまったく出ないわけではないですけど、なるべく政治活動には 巻き込まないように心がけてきました。もちろん、選挙の時は大変活躍をしてくれる んですが、そのとき以外は極力ね。やはり子育てもありますしね、最低限にしておこ うと。それでも色々出てきちゃったりはするんですが、私の代わりに毎日地元を回っ てもらうとか、そういうのはないですね。
井形 それってすごく新鮮です。今までお話を伺った政治家の方々の場合、奥様と二 人三脚というお話しが多かったので、とても大変だろうとずっと感じていたものです から。岡田さんの配慮がすごく優しいなと。なるべく巻き込まないように、お互いの 人生の距離をとっていらっしゃる……。
岡田 きりがないですからね。
井形 大変聞きづらいですが、そこまで配慮されていても、夫婦喧嘩になってしまう
ことってあると思うんですが……。

岡田 いや、ケンカは、ないですね(笑)。
井形 そうなんですか。
岡田 そりゃ、多少むくれたりとかはありますけど、でも、私たちはほとんど、ない ですよ。
井形 すごい。岡田さんは、奥様と多少雰囲気が悪くなりかかったとき、自分から修 復しようとされるタイプでしょうか? それとも距離をおこうとするタイプでしょう か?
岡田 しばらく時間をおく、という感じですね。少し冷却したほうが。2人ともアツ くなっちゃ絶対ダメですよね。いっぽうがアツいときはいっぽうは冷静に……そうい う関係を常に心がけてはいるんですが。生活の知恵ですね(笑)。
井形 先だってアンケートを取りましたらね、今の50代の夫婦って圧倒的にご主人が 謝るケースが多いらしいのですが、といっても口べたの世代ですから、物を買ってプ レゼントしたり、ケーキ買ってきたりして謝罪の意を伝えようとしたりするようなん ですが。
岡田 謝るためにっていうのではないですけど、よくケーキとか、お土産は家族に買っ て帰るほうですよ。誕生日のケーキとか、先週も新聞に肉まんのランキングが出てい て、たまたまその店に行く機会があったもので、子供のために買って帰りましたよ。
井形 そんな岡田さんは、お子さんから見てどういう父親に思われていると思います か?
妻を映画に誘ってもけっこうドタキャンされるんです岡田 やっぱりちょっと厳格な父親だと思っているのではないでしょうか。私を前に すると、なんか多少緊張するみたいですし(笑)。
井形 奥様からはどんな夫だと言われますか? あなたって優しいのね、と褒められ るとか(笑)。
岡田 それは……(笑)。そういう部分を話すと、あとで妻に怒られますから(笑)。
 さっきお話したとおり、一昨年1年、他の家族はまだ地元に居たんですが、大学生 の娘と議員宿舎で一緒だったんですね。なかなかいい1年……でしたね。ゴハンを作っ てくれたり洗濯してくれたり……家内からは「新婚旅行に行ったような顔してる」と 冷やかされましたけど(笑)。
井形 では、もしお子さんたちが政治家になりたいとおっしゃられたら、どうされま
すか?
岡田 皆ひとつの人格ですから、どのような道を行こうと自由ですけど、大変なこと ですからね、よく考えた方がいいとは言うでしょうね。それから、現状の2世、3世 議員の、ああいうやり方(親の七光り的な)は、ノー! ですよ。 

「政権交代のできる政治」
を根付かせたい

岡田克也井形 少し政治の話もお聞きします(笑)。一言でお答えください。民主党、そして 自民党は岡田さんにとってどんなイメージですか?
岡田 民主党は「若い」、自民党は「ピークの過ぎた崩れ行く建物」。
井形 なるほど。私はイギリスやアメリカの政治を見て感じるのが、日本では、なぜ 自民党の一党政治が続き、政権交代が起こらないのかということなんですね。日本人 は、なぜこれほど自民党が好きのなのかと思うこともあるんですよ。
岡田 政権が交代するのが本来の民主主義のあり方ですよね。なのに戦後60年間のうち、細川政権のときのわずか11ヶ月だけしか、自民党が野党になったことがないとい うのは、民主国家としたら異常なことなんですよ。国民の意思で政党が変わることは あたり前のことなんですよね。絶対に必要なことなんですよ。
 ですが、あの細川 ・羽田政権の時代から10数年の時が過ぎて、やっと今民主党が育ちつつある。先日の 参院選を見てもわかるように、少し人々の意識が変わって来つつある。
井形 このシリーズの対談をやってきて感じたのは、もしかしたら、日本にも二大政 党の時代が来るのではないか、タイミングだとかもいろいろあるでしょうが、そうなっ てほしいと願い続けてきたんです。
岡田 次、必ずやりますから。参議院のことがありますから、6年間チャンスがある んですね。この間に必ず政権交代をやりますから。私が政治家としてぜひやりたいこ とは、政権交代がきちんとできる、日本にそういう政治を根付かせること。
 今から10年ぐらいかけて、民主党が二度ぐらい政権を取って、また自民党が取って、 そういうなかでお互いに自己改革を進めていく。自民党だって一度野党になればね、
若手を中心として、変えようとする動きが出てくるでしょう。そうやって10年後に は?政権交代ある政治?が本当の意味で定着してくるんじゃないかと。
井形 これからが正念場ですね。期待しています。今日はどうもありがとうございま した。
岡田 こちらこそ、ありがとうございました。




新シリーズ
政治と暮らし
第1回目 ――安全な住まいを求めて――
馬淵 澄夫

政治家。
私たち庶民からはずっと遠い存在に思える人々。
だが、彼らだって同じ人間だ。
国会を離れたとき、彼らが何を考え、
どんな日常を送っているか、
さまざまな疑問をぶつけていくシリーズ。
第1回目は、耐震強度偽装問題での、
舌鋒鋭く与党に斬り込んでいった姿が
記憶に新しい民主党のホープ、
衆議院議員・馬淵澄夫さんの登場だ。
一語一句忠実に再現したインタヴューの中から
どんな未来が見えるだろうか。


耐震偽造の質疑役は
偶然から始まった

井形 先日、ちょうど自宅で住宅問題の原稿を書いていたとき、テレビをつけたら馬淵さんが国会で鋭い質問をされていた。関西弁ですっごいシャープな馬淵さんに、うわー、スゴイ! と思っているうちにドンドン引き込まれて。
馬淵 いやいや、そうですか(笑)。
井形 なんて的確な言葉を使われるんだろうと感動したんです。
馬淵 実は、耐震偽造の問題で質疑の役が自分に回ってきたのは、まったくの偶然なんです。去年の11月24日に、私の事務所に2冊の構造計算書が届けられたんですよ。中身を見ると、17日に発表された耐震強度偽装問題に関わる書類で。
井形 すごい情報ですね。
馬淵 慌てて党の本部に持って行くと、(君は)この問題にかかわることになるかもしれないから、5分後に出るバスに乗ってくれと言われたんですよ。何のことかわかりませんよね? 民主党の現地調査視察団のバスだったんですが、とにかく走って飛び乗った。
 そのあと、民主党の国土交通担当の長妻代議士に調査報告したら、「じゃあ、馬淵さん、質問やってよ」と言われた。私は国土交通部門の担当じゃなかったのに。
井形 鋭い質問をするための周到な下調べや資料の準備はどのようにされたんですか?
馬淵 1週間ほど時間があれば、その間に徹底的に調べます。私の場合は、現地に足を運ぶということなんですけどね。
井形 取材ですね。
馬淵 そう取材。耐震強度偽装問題についてはまず現地に行って、実際に問題のマンションにお住まいの方々に話を伺って、そこから新たな人を紹介され、次の手がかりが出てきた。
井形 手がかり、ですか?
馬淵 ええ。たとえばあそこの工務店はこんなだったよとか、もともと建設会社にいた人が所長やってるんだよとか、住民の方々が教えてくれる。そこで「よくご存じですね!」と言うと「俺は知り合いなんや」と。
井形 つながっていくんですね。
馬淵 ええ、だから現場に足を運ぶことが第一なんですよ。ただこれは時間があれば、という場合であって、「明日質問してくれ」という時はそうもいかない。
井形 そんな急なこともあるんですか?
馬淵 あります。その場合はもう、徹夜で。もともと、いくつも用意しておいた引き出しの中から、これはもう少し論点を整理すれば明日1時間の質疑に耐えられるぞとか、自分なりに判断して形にしていく。
井形 そして、それを党の誰かに提出するんですか?
馬淵 いえ、それはしません。提出する先もないですから。そもそも党というのは、選挙で選ばれた一国一城の主の集まりで、それぞれの責任と能力において質問する機会を与える場なんです。
井形 では、私がもし政治家になって、質問したい! と言えばやらせてもらえるんでしょうか?
馬淵 ええ。医療、子育て、住宅問題、なんでもいい。そこに関わる委員会に行って「私に質問させてください」と言えばやらせてくれます。
井形 そうなんですか。私は、馬淵さんが弁舌鮮やかな論理派なので、それで抜擢されたのかなって思ってました。
馬淵 ああ、そう思うんですね(笑)。確かに耐震強度偽装問題については偶然でしたが、予算委員会では選んで頂きました。予算委員会は、全大臣を呼べるという国会の中でも花形委員会です。この委員会に委員として選ばれたのは2期生で私1人でしたが(笑)。

言わせたい言葉が
あるからそれを引き出す

井形 ところで、国会の中継を見ていても、日本の政治家の言葉は曖昧だし、歪曲表現だし、はっきり言ってよくわからない。そう思いませんか?
馬淵 いやぁ、思いますね。特に政府側の答弁ね。はっきり答えられないところに意味がある、みたいな感じなんですよね。
井形 でも、そればっかりですね。聞いててイライラしませんか?
馬淵 しますよー。玉虫色で、どちらでも取れるような答弁を繰り返す。だから、それをハッキリさせるというのが質疑者の能力を問われるところなんです。
井形 私が見た質疑では、馬淵さんは緊張気味でゆっくりお話になっていた。この人って、案外弱腰かなぁと思って見ていたら5分、10分経ったときに言葉が炸裂。最初っからワーッと迫ったわけじゃないでしょ?
馬淵 ああ、やらないですよ。国会の質疑は怒鳴り合う場ではないので、最初は抑制してきちんと事実を確認していく。
井形 なるほど! あれは事実を確認してたんですね。
馬淵 言わせたい言葉があるから。それを引き出すためにいろんな角度から聞く。それで、問題発言があったときに、「おかしいじゃないか!」と、ダーン! といきます。そのときは声のトーンもね、思いっきり、万感の思いを込めてね。
井形 確かに「住民の皆さんが!」という言葉はほんとに伝わってきました。
馬淵 自分なりにね、質疑全体の1時間のストーリーがあるんですよ。僕はいつもストーリーがビジュアルで浮かぶんです。その通りに進むと、「よーしハマったな!」って(笑)。
井形 自分がやりこめられる姿というのは考えないんですか?
馬淵 いや、それも時には頭に浮かびますよ。でも、プラスのイメージを持っておく。それでも予想もしない答えが返ってきて、こっちが調べたことと違ったりしたら焦りますよ。「やべっ!」って(笑)。
井形 そういうときの切り抜け方とかって、あるんですか?
馬淵 ごまかせないんで、もう高速で頭を回転させます。今回もね、1つ2つありました。私の発言に対して「いや、この法律にはかからないんだ」と言われて、うわっ、しまった……調べときゃよかったと思いました。あれは与謝野大臣の時でしたけどね、国家公務員の一件で、国家公務員倫理法適用外だと言われてね、ええ、うっそーっと思って(笑)。
井形 でも、顔に出せないですよね?
馬淵 そこでもう1回、冷静になれと思って……「立法趣旨に則って、法の適用外と言ったからってそれは通らないだろう。なぜこの法律ができたのか、立法されたときの趣旨を思い出してください!」とやって、グワーッとひっくり返す。
井形 すごい!
馬淵 これだこれだと、そのときは自信満々の顔で、「何を言ってるんですかぁ! ふざけんのもいい加減にしてください大臣!」と言っていても、その数秒前は「しまったー……」となってたんですけどね(笑)。
井形 さすがーっ! 役者ですねぇ。

「委員長!」と
手をあげて立った瞬間、
緊張はピークです

井形 このディベートはどこで勉強されたんですか?
馬淵 よく聞かれるんですけど、6年前までいたビジネスの世界、それが修行の場だったかもしれませんね。社長という立場で、もっと大きな資本提携についてどのようにするか、という局面もありましたからね。
井形 では、質疑のいらだちに打ち勝つためのモチベーションってあります?
馬淵 ええ。ひとつはいかなるときも冷静を保つ。もうひとつは大義の存在。なぜ自分はこのことを訊かなければならないのか、そこが揺らいじゃダメなんですよね。これは正義なのだ。これを明らかにしないと国民は納得しないんだ。そういう大義が自分の中にないと、やっぱり途中で引いちゃうんですよね。
井形 めんどくさくなって?
馬淵 というかね、逃げられたら追っかける気力を失うんですよ。
井形 わかります。私も見てて楽しい。もっとやれやれーって思いますから。(相手に)お前ウソつくなー! って(笑)。
馬淵 ありがとうございます(笑)。でも、いつも緊張してやってるんですよ。
井形 馬淵さんでも緊張されるんですか?
馬淵 そりゃ、しますよ。「委員長」と手を挙げ、名前呼ばれてすくっと立ったその瞬間はドキドキします。でも野次や怒号や、相手の大臣からどんな言葉が飛んできても、ひるまないぞと、それだけです。戦う姿勢を見せ続けることで、相手がひるんでくる場面も出てきますから。
井形 それは相手の表情でわかるんですか?
馬淵 わかりますよ。
井形 目で?
馬淵 目、表情、態度でね。それにそういう表情を国民の前で見せることで、テレビを見てる皆さんも、『あ、これはウソついてるな、政府はずるしてるなって』やっぱり透けて見えるじゃないですか。
井形 そうですね。テレビは表情をアップで映しますからね。
馬淵 それは僕らにもいえる。いい加減な質問をすると、跳ね返されて窮する表情が、やっぱり映る。だからこそ、しっかりと事実に基づいて本質の論点をずらさない質問をしなきゃいけない。

政治家の言葉と
テレビでウケル言葉は違う

井形 政治家って、話ヘタだとダメですよね。
馬淵 と思いますよ。だって、僕らは言葉しかないんですよ。政治家は言葉が武器であり魂。でも、言葉を大事にしない政治家が多すぎるんです。
井形 そうです! 話し方教室行った方がいいんじゃないかと思って。
馬淵 まして、バラエティーに安易に出ちゃうでしょ。バラエティーが悪いとは言いませんが、政治家として発する言葉と、テレビでウケる言葉というのを自分の中でちゃんと吟味できるレベルになってからでないと、こわいなと思う。今回のメール問題なんかでね、出てくれなんて言われてもね……。
井形 出演依頼きたんですか?
馬淵 もう、いっぱい来ました。……でも、僕はコメンテーターでもないし、ほら、テレビってタレント求めてるじゃないですか。アレが怖いんですよね。
井形 まだ早すぎると?
馬淵 というか、政治的な実績があるワケじゃない僕が、自分がやったことについてなら言えるけれど、何か影響力を持つ人間のような顔をして出て行くことは大きな勘違いだと思うんです。僕ね、昔会社やってたときに考えていた。「かぶく人たち」を「かぶきもの」と呼び、それが歌舞伎という芝居になったんですね。「かぶく」とは、ある意味、人に対して物事を極端にデフォルメすることです。でも、本質をデフォルメしながらも人の心に染み渡るような詩的なポエムを作り、時にはショーアップする。物事の本質をとらえた表現方法です。政治家というのはかぶけないとダメだと思うんです。でも、かぶく瞬間はね、本質じゃないといけない。でないと、単なるおっちょこちょいになってしまう。
井形 難しい分かれ道ですね。
馬淵 ええ。そういう意味じゃ、僕は小泉さんは見事にかぶいてると思うんですね。
井形 私もそう思います。海外のメディアもそこをよく取り上げる。
馬淵 ブレアさんにしても、あるいはレーガン、クリントンもそう。
井形 これはイメージ作りとも違いますね。
馬淵 ええ。本質に対して、国民や庶民に突き刺さる言葉を瞬時に把握できること。これはもう天性。勉強だけできた人にはたどり着けない世界です。
 たとえば小泉さんのかぶくすごさ、「自民党をぶっ壊す」とよくおっしゃるでしょ。「ぶっ」「ぶ」と小さな「つ」、これを付けられるか付けられないかの違いに気付いた。自民党を壊すというのは誰でも言える。でもそこに「ぶっ」をつける。そのセンスというのが、かぶきものの証明なんですよ。小泉さんは郵政民営化のときに「殺されてもいい!」と言ったでしょ。普通に考えたら殺されるわけないじゃないですか(笑)。総理なのにあり得ない。
井形 大げさですね(笑)。
馬淵 でも、そこで「殺されてもいい!」これがかぶきものの極み! これができるかどうかでドーンと大きな差がつきますから。
井形 人気もね。かぶける人は人気が出る。
馬淵 そう。でも、これを間違えたら痛い目に遭うんですよ。これは真似する世界じゃない。その人の天性、そして生きてきた歴史、経験の中で身につけるものだから。
井形 それはご自分で見つけた法則ですか?
馬淵 ええ、こんなことばっか考えてるんですよね(笑)。なぜ彼は大衆の心を掴めるのか。レベルは違うけど、僕も会社で社員の心を掴むにはどうするか……そればっか考えてやってきたから。

奈良の大家族と
議員宿舎の一人暮らし

井形 ところで私、馬淵さんと同世代なんですよ。
馬淵 ああ、光栄です(笑)。
井形 熱血漢であるところや、根性はよく分かります。私なんか、バレーボールの『サインはV』見たり。
馬淵 『アタックNo・1』とかね。僕なんかは『巨人の星』ですけどね。男の子はね(笑)。
井形 そういう世代なので熱いですよね。馬淵さんって、以前は建設会社にお勤めだったとか。
馬淵 そうですね。大学を卒業してから5年間、いわゆるゼネコンにいました。
井形 だから、この耐震偽造の問題に詳しいのかなぁなんて。
馬淵 まぁ、少しは役に立った部分があるかもしれませんけどね……、それでも建築の現場じゃなく土木でした。
井形 同潤会アパートに行かれた時のこと、ブログで拝見したんですけれども、日本って、ああいう趣のある建物とか街並みが消えていくのはどうしてだと思います?
馬淵 それ、非常に重要なポイントだと思うんですけど、日本はヒューマンスケールを忘れた街作りがドンドン進んでしまっている。そこは、人と人が油断して交われる場所、昔なら井戸端だとか、見通せない角だとか、そういった一見ムダに見えるけど、人が生きていく上でなきゃいけない場所。それを確保せずにとにかく機械的に、無機質に建物を造ってしまった。それこそが、近年の日本の街作りの大きな問題点ではないかと思うんですね。
 同潤会アパートは、ヨーロッパのアパートメントのような、素晴らしい試みを行ったけれども、それがやがて、住宅公団に変わっていき、南向きの板状の羊羹のような建物と共に南面板状神話ができあがる。
井形 南向きが最上という価値観の始まりですね。
馬淵 でも僕自身はね、南面板状神話の団地で生まれ育った。そこから街のアイデンティティというものができあがってくる。ただし、こんな建物ではね、何十年もの時間がかかってしまう。そこに建築家や建設業に関わる人々は、意識を向けなきゃダメなんです。
井形 では、現在の奈良のご自宅はどんなお家なんですか? お子さんが6人もいらっしゃるということで、大きな家ではないかと……。
馬淵 6人の子供と、私の両親と家内の両親、12人家族で暮らしてきましたからね。
井形 ええー、お互いのご両親もご一緒に?
馬淵 そうです。実は僕の母が認知症なんで一緒に住まざるを得ない。家内の父も寝たきりの状態だったので、それならば一緒に12人で暮らそうと。おばあちゃんのお世話は一番上のお姉ちゃんね、赤ちゃんのお世話は2番目のお姉ちゃんね、というふうに、寝たきりのお父さんのお世話は僕と家内と義理の母とで交互に……そういう暮らしの中で、ああこれは社会の縮図だなと思ったんですね。そこに政治的な課題の本質もある。
井形 なるほど。ちなみに一人ひとりのお部屋はあるんですか?
馬淵 個室なんてないですよ(笑)。おじいちゃん、おばあちゃんの部屋だけは別にしてますが。基本的には空いてる部屋に寝るという感じですね。
井形 そうなんですか!
馬淵 だから、私なんて帰宅したら空いてる部屋に寝るしかないんですよ。
井形 いまはどこに寝ているんですか?
馬淵 最近は幼稚園に行ってる下の子が家内と寝室で寝ているので、仕方なく息子の部屋に行ったり(笑)。義理のお母さんの部屋に行って、ごめんなさいって横に布団敷いて寝かしてもらったりね(笑)。

金銭感覚はとてもシビア
電車に乗り、
激安店で靴を買う

井形 ふだんは東京の議員宿舎に一人でお住まいだと思うんですが、馬淵さんはお小遣いを毎月もらっているんですか? それとも自己管理?
馬淵 私の場合、お小遣いが生活費そのものですから、自己管理ですね。ただ、基本的に無駄遣いはしない。非常にお金に関してはシビアです。タクシーはもったいないので電車に乗って移動するとかね。
井形 議員バッチつけたままで、ですか?
馬淵 その時ははずして(笑)。さすがに最近は顔を覚えられているのか、ちょっといやだなと思うときもあるんですけど。「あ、馬淵だ」と言われたりね(笑)。
井形 そんな馬淵さん、すごいオシャレだと思うんですよ。ピンクとかパープル、お好きですよね?
馬淵 いやぁ……なるべく明るめの色にしろと言われているので、顔が怖いから(笑)。
井形 いえいえ、ところがケータイもパールピンクですよね。なんというか、JJガールみたいな感じ(笑)。
馬淵 これはね、たまたま店の若い女性販売員の方に「お客さんお似合いですよ」と言われて、なんとなく買ってしまったんですよ(笑)。
井形 スーツはどこでお買いになるんですか?
馬淵 まとめ買いですね。時間が空いたときにぱっとデパートに行ってまとめてワイシャツ買ったりとか、あと、オリンピックとかで安い靴をまとめ買いするんです。
井形 うそぉ。馬淵議員がディスカウント店!? そういうときって秘書ヌキで一人で行くんですか?
馬淵 そりゃそうですよ(笑)。最近はコンビニでガム買って、バレてないなぁーと思ってたら、最後にお金払っておつりもらうときに「がんばってください」と言われたりして(笑)。ひえーって。
井形 もし3日間休みがあったら、何を一番したいですか?
馬淵 子供と、遊びたいですね(笑)。
井形 お子さんと何をしますか?
馬淵 えーっとね、ホントに時間ないときは夜寝るときに布団の中でお話しするんですよ。作り話、おとぎ話を即興で考えて話す。あと、外で子供とサッカーしたり、キャッチボール。下の子が自転車乗れるようになったんで、一緒に乗ってあげたいなぁって。
井形 一人になりたいと思ったことはないですか?
馬淵 んー……人間っていうのは生きてる間、やっぱり一人じゃないですか。僕はそういう思いがいつもあって。最後の最後は自分で決めていかなきゃいけない、いつも一人だと。だからこそ、家族が常にまわりで守ってくれているんだってね。
井形 では、東京の一人暮らし、淋しいですか。
馬淵 それは……すごく淋しいですね。
井形 いつ一番淋しいとお思いになりますか?
馬淵 夜、部屋に帰るとき。テレビ電話で子供を出してって頼むんです。彼らが起きてる間は出てくれて楽しいんですけどね。この前、夜遅くに電話したらみんな寝てましてね、(テレビ電話の画面に)暗闇の中の女房の顔がボオッと浮かんできまして。「お前コワいな!」って言ったらもうカンカン。夜中かけてきて「コワいな」って言ったもんで (笑)。
井形 たたき起こされて、怒りますよ、そりゃ(笑)。ところで馬淵さんの血液型は何型ですか?
馬淵 B型だと思います。ちゃんと検査してないんでわかんないんです。注射が苦手でね。一回献血行けって言われましてね、注射の針いややなーっと思って(笑)。怖いものは医者と幽霊なんですよ。井形さん、『シックスセンス』ってごらんになったことあります?
井形 途中で寝ちゃった映画ですね。
馬淵 いやーもう、私は後悔しました。奈良の事務所がビルの6階なんですが、一人で最後までいて帰るとき、電気消すと真っ暗になるじゃないですか。『シックスセンス』に出てきた幽霊が出てくるんじゃないかって……。だから電気消して出るときはいつも歌を歌って……。真っ暗ですからね。
井形 意外ですね(笑)。じゃあ、ひとりで議員宿舎に帰ったら、真っ暗で怖いんじゃありません?
馬淵 いやー……それが実は、タイマーで(点灯)セットしてて、帰る時は(電気がついていて)明るいんです(笑)。

日本の危機は
政治家が価値観を
語らなくなったこと

井形 もし、総理大臣になれるという可能性が出てきた場合、なりたいと思いますか?
馬淵 ええ。僕はずっといろんな会社の経営もやってきたんですけど、「有事の人だ」とみんな言うんですね。会社がつぶれそうになった時とかに必要とされる人間と。
井形 会社を救済したり?
馬淵 ええ、立て直したり、自分は有事のときにこそ力を発揮できるので、ひょっとして、この国で野党が政権を持たなきゃならないという「有事」が発生したときに、僕がたまたま責任ある立場にいたら、その場面がくるかもしれないなと。
井形 そうですね。
馬淵 ……ただ、右肩上がりで、(国が)安定しているときには、僕じゃなくていいと思うんです。
井形 馬淵さんは経営者として実社会のことも分かっている。そういう方が苦境では絶対必要ですよね。今、日本は有事だとお思いになりますか?
馬淵 完全に有事ですね。今、価値観を政治家が語っていないんですよ。国のリーダーが日本ではどういうものを大切に生きていけばいいか、何を信じてどういう社会を作るのか言わない。子供のみならず大人までが何を大事にすべきなのか見失っている。
井形 言えないんでしょうね。
馬淵 いえ、わからないんでしょう。小泉さんは盛んに改革と言いますが、あの改革というのは壊すことだけ。壊したあとにどういった国を作るのかについてひとつも語っていないですよ。
井形 そこが最大の欠落ですね。
馬淵 ねぇ、僕はね、子供を6人育てながら、「何を大事にしなさい」(と言うべきか)そればっかりをいつも考えますよ。
井形 なんですか、それは……?
馬淵 ルールの中で責任を果たす、逃げない。
井形 それ大事ですね。
馬淵 そのうえで、「自分ばっかり」という言葉をはいたときにはすごく僕は怒ります。「自分ばかり、なんでいろいろやらなくちゃいけないんだ」じゃなくて、できる人がやってあげる、でないと回らないんですよ。何が足りないばかり言うなと。
井形 なるほど。あと、政治って数の論理ですよね。馬淵さんをまわりで固める人がこれから必要ですよね?
馬淵 それは僕、よく言われるんですよ。たとえば民主党の若手議員の中では、いち早く仲間を作るため、飲んだりする。でも、そういうのをくだらねーって思う。そういうことをやるぐらいだったらね、一人でも、永田町の世界ではない人に会いたい。
井形 よく分かります。
馬淵 それこそ、井形さんのようなお仕事をされている方とか、いろんな方からいっぱいエッセンスをいただく。そうすることで共感を得られる政策ができれば周りに人が集まり、自然と形になっていくはずですよ。耐震強度問題で僕が前面に立って進んでいったときに、いろいろと危ない目にもあったんです。でも、メール送ってくれたり、電話してくれたりして励ましてくれた仲間はいる。それがグループになるかは分かりませんけどね……徐々にね……ほんとに、天命がある政治家なのだとすればね、自然と人が集まってくるはずです。
井形 これからもぜひ、馬淵さんの言葉で私達の疑問を解明して下さい。今日はありがとうございました。


第2回目
政治と暮らし
――時代と闘う肉弾の人――
亀井静香

歯に衣着せぬ発言で反小泉を宣言し、
庶民重視・地方重視の政治姿勢を貫き
強烈なカリスマ性を放つ亀井静香議員。
実は油絵の達人で、好物は
シュークリームという繊細でキュートな
一面も持った実に人間的な方である。
そもそもコワモテのイメージと“静香”という
美しすぎる名前からして、
「ギャップの人」なのだ。
ときにマジメに、最後は抱腹絶倒のスペシャル対談。
ベテラン政治家の本音溢れるトーク、
しかと読んでいただきたい。

好物のシュークリームと
ホリエモンとの戦い

井形 今日は亀井さんにお会いするのを楽しみにしてました。
亀井 いやいや。私も井形さんのお名前は前から聞いてましたからね。
井形 そうですか! ありがとうございます。実は、私たちにとって政治家というのは遠い存在ですが、実際にどんな生活感覚を持ってらっしゃるのかを探るシリーズなんです。で、亀井さんは今朝、何を食べてこられましたか?
亀井 んー。今朝はねぇ……シュークリームとコーヒーですね。
井形 シュークリームですか!?(笑)。亀井さん、学生時代に家庭教師をされていたとき、生徒の家で初めてシュークリームを食べたとか?
亀井 そう、とにかくね、この世の中にこんなに美味しいものがあるのかと思って、びっくりしました。
井形 それまでシュークリームって食べたことなかったんですか?
亀井 食べたことない。だから、皆さんが時々シュークリームを送ってくれるんですよ(笑)。
井形 ところで私、亀井さんみたいな忙しい方の一日のスケジュールってどうなってるんだろうって前から思ってましたが。
亀井 んー。1日のスケジュールってね、自分で決める部分もありますが、だいたい、秘書の管理下にありますね。
井形 そうなんですか。朝何時に起きるとかも?
亀井 それは日によって(前の日が)遅い時には遅く起きるし、早い時には目をこすりながらでも不機嫌に起きてきますしね(笑)。私はだいたい、朝が弱いから(笑)。
井形 (笑)そうすると、10時頃まで寝てることもあると?
亀井 ありますよ。朝5時に起きることもあるしね。
井形 そうなんですか。じゃあ、夜は何時頃お休みになるんですか?
亀井 これもねぇ、もう、日によって全然違いますよね。深夜のデートしてるわけじゃないけど、夜遅くなることもあるし(笑)。
井形 そうなんですか(笑)。
亀井 だって、政治家というのはいろんな仕事してる方々の生活をどうするかという責任がある。そういう意味では、いろんな方にお会いします。それはサラリーマンの方のような定型化された中での変化というのじゃなくてね、何が起きるかわからないんです。それが政治の世界ですから。こないだなんかは、小泉さんにスパーッとクビ切られちゃったわけでしょ?(笑)。
井形 そうですね(笑)
亀井 それでねぇ、やらなくてもいい選挙やらされちゃった(笑)。
井形 大変でしたね。ずぶ濡れになって、最後の力を振り絞って、選挙区を歩いておられる亀井さんの映像って、まだ私の脳裏にこびりついていますよ。
亀井 たまたまね、街頭演説してたらね、台風が来ちゃった。あそこはね、中国山脈の真ん中のちっちゃな町ですけどね、ザーッと降ってきて、傘よこせってわけにいかないでしょ。
井形 ええ、ええ。
亀井 だから、そのまま演説した。今度は国民新党を作ったんで原点に戻る。いままでは自民党の候補者としてやってきたけれども、最初の選挙に戻りますって。
井形 新たな出発ですね。
亀井 そう。新党を作ったんでね。なぜ今までの政治がダメだったのかということを、私は一番最初っからやろうと思った。
 そしたら一人ひとりの人がバックアップしてくれた。最初に当選したときの……県会議員、市会議員……関係ない人たちがね。
 もうちょっと行けば島根県という小さな町のお百姓さんだとか、主婦の方とかも含めて、いろんな方が必死になって応援してくれて、私は奇跡の当選をした。本心はその人たちにお会いして、なぜ国民新党なのか、ということを訴えたかった。別に、ホリエモンさんが来たから泡くってかけずり回った、というのとは違います。
井形 そうすると、ホリエモンに対する対抗意識よりも、新しい党を作って、それを分かってほしいという気持ちが強かったんですね。
亀井 そう。わたしはね、ホリエモンさんが私への刺客と決められたときにね、「あ、勝った」と思ったね。
井形 なぜですか?
亀井 だって、小泉政治の象徴としてホリエモンさんを私に送るということは、小泉さんの考え方なわけでしょ。
 彼は天皇制反対、公的年金もいらない、女性の心は金で買えるといった本まで出してるわけで。
井形 亀井さんは女性の心は金で買えると……?
亀井 買えるわけないじゃないですか! それだったら、まず結婚できてないでしょう?
井形 奥様と(笑)。
亀井 そう。そういう人を私に対する刺客として送ってくる。ということは、私にとっては、やりやすい。私と逆だから。

静香という
美しい名前、好きです

井形 今日、ぜひ聞きたかったのは、「静香」っていうきれいな名前の由来です。
亀井 それは……簡単よ。生まれたときに荒川静香さんみたいにさ、かわいくてきれいだったのよ(笑)。
井形 ええ? 亀井さんが?
亀井 だから、静香ってつけたんですよ(笑)。
井形 (笑)それはどなたがつけたんですか?
亀井 誰かよく分からない。お袋が「静枝」だからね、その「静」をとって「香」をくっつけちゃったんじゃないの。
井形 なるほどねぇ。でも静香って女性の名前で、すごい美人が多いですよねぇ!
亀井 そう! 男性は男前だしね(笑)。そういえば、あんまりいないなぁ。男で静香っていうのは(笑)。
井形 そうですね。女性に間違われたことってないですか?
亀井 あるある。私が初当選して、鳥取の大山ゴルフ場に兄と一緒にゴルフに行ったとき。
井形 ゴルフ場で?
亀井 そう。めんどくさいからクラブも持って行かなかった。レンタルで注文して。それでティーグラウンドに行ったらね、レディースクラブなのよ(笑)。
井形 (笑)それで?
亀井 亀井郁夫という兄貴の名前で申し込んだから、ゴルフ場側は夫婦だと思っちゃったみたいでね。それで、女性用のレンタル(クラブ)を用意してたと(笑)。
井形 それで、文句言いに行ったんですか?『俺が亀井静香だ』って(笑)。
亀井 ええ(笑)。あとね、私が修道高校を放校処分になって、東京に出てきたときにね、東京駅に兄貴が迎えに来てくれた。こっちは「今行くよ」ってポーンと電報打って出て行ったわけ……。そしたら、兄のそばに学生が立ってて彼が「なぁんだ」って俺の顔を見て言う。彼は今の若林正俊議員。だけど、兄貴の友達だったのよ。後で聞いたら、兄貴が彼に「今日、静香が来る」って言ったらしいんだ。
井形 ええ(笑)。
亀井 しかも、兄貴は石坂浩二に似てると言われ男前だった。今はちょっとカバみたいなおかしな顔になってるけどね(笑)。その兄が「静香が来る」って言うもんだから、友人らは、こりゃ、美少女が来ると期待した……(笑)。
井形 すごい設定ですね(笑)。
亀井 それで東京駅までくっついてきて、見たら男の子でしょ。男の子だからさ、なぁんだとがっかりしたらしいんだよね(笑)。「何だとは何だ!」と思ったよ。
井形 あはははは! 怖いですね(笑)。で、亀井さんはこのお名前、好きですか?
亀井 好きですよ。
井形 ほんとにきれいなお名前ですよね。
亀井 しかも、今は荒川静香さん、工藤静香さんと同じだし。
井形 そうですよ。トリプル静香ですよ。……やっぱり、すごいイメージですが(笑)。

基本は相性がいいこと
うちは普通の夫婦とは違う

井形 ところで亀井さん、次に生まれ変わるとしたら誰になりたいですか? この中から1つ決めて欲しいんですが。
亀井 うん。
井形 ……1番・ヨン様。2番・エリザベス女王。3番・カルロス・ゴーン。4番・三輪明宏。この中だったら?
亀井 (笑)。ヨン様さ。
井形 ヨン様!? うそ(笑)。理由はなんですか?
亀井  4人の中ではヨン様さ。
井形 (笑)。やっぱり、おばちゃまたちにギャーッと言われて追いかけられたいって願望あります?
亀井  んー。モテないからね。
井形 いやー、そんなことないでしょう。
亀井  だって、俺の女房までね、韓流ドラマにハマっちゃってんだもん。
井形 そうなんですか。
亀井  うん……。
井形 奥様もヨン様がお好きなんですか?
亀井  そうなんだろ。せめて家内の愛をね、つなぎ止めておきたい……というわけでもないけれど(笑)。
井形 なるほど(笑)。だけど、亀井さんは奥様と年に2、3回ぐらいしかお食事一緒にできないとお聞きしましたが。
亀井  そう。そんな程度だね。会うことも少ない。秘書頭みたいなものだから、電話では毎日話すけれど、食事をすることなんかは滅多にない。
井形 じゃあ、お電話ではどんなお話をされるんですか?
亀井 ほとんど仕事の話。地元の選挙区でどう対応したらいいかという、そういう話。自分で判断ができないことは聞いてくる。
井形 そうすると、奥様は運命共同体であり、秘書でもあるんですか?
亀井 そうそう。
井形 二人三脚で政治をやってらっしゃるっていう感じですね。
亀井 まぁねぇ。普通の家庭の夫婦関係とは違いますよ。
井形 どこが一番違いますか?
亀井 色恋とかね、家庭を二人で守っていくとか、子供たちをどうしようかとかね、そういうことよりも、私自身が地元をどうするか、日本全体をどうするか、そういうことへの関心が頭の中のほとんどを占めているわけですから、夫婦の会話も、結局そんな内容になっちゃうんですよ。
井形 だいたい、一回のお電話でどのくらいお話しされるんですか?
亀井 まぁ、私はパッと言っちゃう方だからね、そんなに長くはかかりませんよ、数分といったところで、一日何回も電話しますよ。だけど、さっきも言ったように顔を見ることはそんなにない。家内も助かってるんじゃないの、こんな顔見なくて済むんだから(笑)。
井形 でも、お子様もいらっしゃいますし(笑)。
亀井 だからねぇ、子供は可哀想だね。遊園地に一緒に遊びに行ったとか、そんな思い出はないでしょう。
井形 なるほどね。でもそんな中で、どうやってご家族の絆を作っていらっしゃるか、ものすごくお忙しい中で、たぶんピンポイントでいろんな心づかいされてらっしゃると思うんですが、ひとつだけ秘訣を教えてください。
亀井 んー。秘訣っていうほどのことはないんでねぇ……私はいい加減だからね。子供から見たらね、ひどい父親だと思ってると思いますよ。ただ、嬉しかったことはね、娘があの選挙で地元に応援に来てくれたんだ。終わってから食事をごちそうした時ね、「お父さん、今度の選挙ほど誇りを持ってやれたことはなかった」と言ってくれたんですよ。……嬉しかったねえ。
井形 よかったですね。
亀井 だからね、子どもとも、どこかで心は通じてるんですよね。
井形 それはきっと、会っても会わなくても、亀井さんの真剣さというのを奥様もお子さんたちも見てらっしゃるからでしょうね。
亀井 うん。しょうがない親父だけどね、もう政治家になったんだから、助けなきゃいかんと思ってるんでしょう。昔、警察官だった頃、官舎を朝出るときに「今日でもう辞めるよ」って女房に言ったらね、「どうすんの」って聞かれた。「選挙に出るんだよ」って言ったら、きょとーんとした顔をしてたのを今でも覚えてます。
井形 驚かれたんでしょうね。
亀井 あとからね、「警察官の女房になったと思ったのに騙された!」と言われたもんですからね、「あの時、出がけに言ったじゃないか」って言ったらね、「そうは言っても、きっと誰かが止めてくれると思ってた」って(笑)。
井形 亀井さんは、思い立ったら絶対動く人ですからね。
亀井 そうだね。思うに、どこの家庭の夫婦も基本的にはね、ウマが合ってるかどうかが大切だと思うよ。
井形 と言うと?
亀井 いちいちお互いのテクニックを使って、お互いの愛を高めるだとかになると難しいよね。私は(夫婦って)ダメな場合は、さっさと別れたらいいと思うから。
井形 なるほど。
亀井 お互いにウマも合わない、死ぬような努力をしないと波長が合わないのであれば、限られた一生を一緒にいても、惨めだと思いますよ。

攻撃は苦にならない
ストレスに弱い人は
政治家に向かないよ

井形 ところで、さきほどちょっと出たんですけれども、政治家って私たちが考えている以上に人間関係のストレスがありますよね。数の論理で動くところもありますし。亀井さんは、すごくストレスがかかった日や精神的に疲れたとき、どうやって発散しているんですか? たとえば、記者からしつこく突っ込み入れられたり、国会でやられたり、いろいろあるじゃないですか。
亀井 いや、僕は、そういうことはそんなに苦にならないから。
井形 めちゃくちゃ反論されても苦にならない?
亀井 うん。それよりも、逆に自分の言動で人にうんとストレス与えてんじゃないかと、ときどき反省してるぐらい。脳天気だね。
井形 窮地に追い込まれても?
亀井 うん。
井形 本当ですか?
亀井 あのね、政治家というのはね、血が逆流する思いを楽しむぐらいの気持ちがないとやれないんだ。だって、国全体をどうしていくかってことを考える役目でしょう? それなのに、いちいち周りを気にしてたら前向きには取り組めないですよ。
井形 確かにそうですが……。
亀井 簡単に言うとね、政治の世界は、槍衾の中で生活しているみたいなもんです。それなのに、いちいち槍で突かれたとか、刀で斬りつけられたとか言ってられない。やってはいかん選挙をやられたこともそうです。そんなことをいちいち苦にしていたら(政治家は)やれませんよ。
井形 じゃあ、精神力の強い人じゃないとプロの政治家にはなれないと?
亀井 そう。精神力が弱くて、ただバッチだけ付けたい小泉チルドレンみたいなのはね、国会議員であったって、国のため、国民のために体を張った政治をやるなんてことはできないと思いますよ。
井形 そうですね。政治家は精神力ですね。亀井さんは政治家を辞めたいと思ったこと、ないんですか?
亀井 ありますよ、もちろん。
井形 どんなときですか? もう辞めたいな、向かないんじゃないかなと思ったのは……。
亀井 やっぱりね、なかなか自分の意志を理解されないという時ですね。
井形 それは国民にですか、それとも周りの政治家たちにですか。
亀井 国民にです。なぜ伝わらないんだろう。それは自分の努力が足らないということなんだけれども……「やんなっちゃったな」と思うことは、ありますよ。しかしね、実際そういうわけにはいかない。そう考え直してまたやるんだよね。なかなか自分の思うように進んでいかないじれったさから、時々「やーめた」という気になるけどね(笑)。

交響楽団に予算をつけた
文化こそ
日本の力になるから

井形 亀井さんが年頭のご挨拶をネットでなさってましたけど、このなかで「いま日本では文化の死滅が起きている。芸術、文化、産業が融合した社会でなければ、健全な社会とはいえません」とおっしゃってましたね。
亀井 そう思いますよ。
井形 その対極にあるのが堀江さんが象徴する拝金主義だと思うんですけれど。実は、亀井さん油絵も描いていらっしゃって……。
亀井 ヘタな絵ね(笑)。殴り書きだよ。
井形 いやいや。個展もなさってて(笑)。そんな亀井さんが言われる通り、日本って今、文化力が落ちて拝金主義が注目されてます。これについてどうお考えでしょうか?
亀井 これはね、井形さんが指摘されたように、今の日本は、日本じゃなくなってるのよ。日本人というのはね、お互いに助け合いながら、みんなで幸せになっていこうという文化を持っていた。だから、たおやかなんだね。平安朝にしたって奈良朝にしたって、男女関係にしたって、すべてがそうだよね。お互いに許し合いながら生きていこうとする。それが今のようにね、他人は敵と思え、競争相手と思えとなればどうか。いまは女房がダンナに対してもそう思い始めちゃってんだからね。
井形 家族も殺伐としてますね。
亀井 だから、やっぱり人間の心なんです。まさに芸術・文化というのは人間の心を表していくことでしょ?
井形 そうですね。
亀井 そういう力がね、今みたいに極端になくなってくるということが、私は問題だと思いますよ。だって道路ひとつ作るっていったら、何十億ってかかりますよ? そのカネを文化に振り分けていったら大変な文化伸張になります。
 私が政調会長やってた時に、文化庁から予算要求あったわけでもないのに、『もうちょっと文化の補助金出せよ』と言った。文化庁への予算として2500億円を主張した。それまで一千億円に届かなかった。それに予算をつけた。たとえば群馬交響楽団とか、広島交響楽団とか、日本には交響楽団が18ぐらいあるでしょう。でも一流のバイオリン弾きが食べてけないからって、奥さんを働かせながらクラシックやってるの。
井形 そうですね。日本は文化にお金をかけない。
亀井 だから私がね、財務省……当時の大蔵省に対して、各楽団に条件つけずに年間で1億円ずつ予算をつけた。
井形 すごい!
亀井 補助金を出しなさいと言って、どの交響楽団も年間1億円が文部省から配布され、それが今もずーっと続いてますよ。彼らにはわずかの金だけど、どれだけ助かっているか。たとえばね、ウィーンフィルなんか日本にやってきても、東京、大阪公演したら、広島飛び越えて博多に行っちゃう。
井形 文化は都会に集まるんですね。
亀井 でも、わたしの田舎の、山の中にある庄原という(広島県庄原市=亀井氏の出生地)……人間より猪や猿とかの多いようなところで公演をやってくれると、今まで演歌や浪花節しか聴いたことがない人たちが、異文化に触れることができる。それによって、人間の心というのは飛躍的にバクハツする。それをやはり国が補助してやらないとね。文化、芸術は採算なんか合わないんだから。
井形 それこそ国の仕事ですね。
亀井 そう。そういうことを全国的にやっていくことを含めて。結局ねぇ井形さん、日本人というのは、世界の中でも素晴らしい魂を持っているんです。だから、世界一になったでしょ?
井形 そうですね。
亀井 日本は石油が出るわけじゃない。鉄鉱石が出るわけでもないでしょ? 台風はしょっちゅうくる、地震は起きる。そういう国がなぜ世界一になったかというと、やっぱり日本人の心というか、DNAが優れているからです。
井形 たおやかな心ですね。
亀井 それをね、今の時代は、小泉政治というのはね、人間を道具扱いにした。安くものが作れる道具扱いしてしまった。今ね、経済が良くなってきたなんて大嘘です。そんなことで日本経済は絶対に発展していかない。
井形 亀井さんがそんな危機感を持たれたのは、どのくらい前からですか?
亀井 政治に出る決意をしたときからですね。
井形 えー、そんな昔から!
亀井 そのころからやっぱり日本はおかしくなってきたなあと。それで警察脱走したの。
井形 そうなんですか。
亀井 警察は、社会が作るゴミを掃除する役でしょ。でも、ゴミを出さないような社会を作るには警察官の手には負えない。政治家になるしかないと思って、立ち上がったんですけどね。
井形 私は亀井さんの「文化を大事にしないと国は発展しない」という主張に大変共感をいたしました。こういう政治家の方が、もっと日本に増えたらいいなぁと思っているんですけれど……。
亀井 いやいや……、みんな寄ってたかってホリエモンさんを叩いてるけど、彼を断罪するだけで問題は解決はしないですよ。
井形 根はもっと深いと?
亀井 うん。彼は時代の子なんです。目的のためには手段を選ばない、そういうことを平気でやる時代になっちゃったからね。彼や私のような徒手空拳の人間、貧乏な家庭に生まれ、親が金持ちでもなんでもない。そういう人が今、やっていこうと思ったら、やっぱり時代の風潮に飲まれて、あんな間違った考え方を持ち、間違ったことをやる結果になってしまう。だから、彼は時代の子だと思いますよ。
井形 そして時代の責任であると。
亀井 そう、時代の責任ですね。

井形 最後に、もし、今3日間お休みがあるとしたら、何をしたいですか?
亀井 毎日寝たい。
井形亀井 (爆笑)
井形 (笑)。遊びに出るとか、テレビ観るとかじゃなくて?
亀井 寝ていたいね。
井形 それは、奥様のもとで?
亀井 いやぁー、じゃなくてもいいですよー。あなたのような人が、そばで寝ててくれれば最高だなぁー(笑)。
井形亀井 (再び爆笑)
井形 光栄です(笑)。こわもての亀井さんの意外なバラエティーに感動しました。今日は本当にありがとうございました。


第4回目

政治と暮らし
――男性議員を迎え撃つ党首のかわいさ――
福島瑞穂


弁護士から政界へ転身、今では社民党の党首として、
格差社会是正の旗印のもと、小泉自民党に
真っ向から論戦を挑む福島みずほ議員。
「元・離婚弁護士」の目に映った永田町の常識・非常識とは? 
また、女性議員ならではの苦労とは? 
さらに、舌鋒の鋭さとは裏腹のキュートな一面も垣間見えて……。



女性議員のワードローブ
とスキンケア

井形 素晴らしいピンクのスーツですね。きょう最初に歩いて来られたときから、そのピンクの色が目に飛び込んできたんですけど……ピンク、お好きですか?
福島 ありがとうございます。もう、大好きですね。もともとはパステルカラーが大好きだったんですね。薄いベージュだとかブルーだとか、クレージュが出す非常に綺麗なピンクとかは、大好きなんですよね。ただ、党首になったときに、色を変えた……というのもハッキリした色の服を着たほうがいいと言われて……。
井形 え、どなたに言われたんですか?
福島 実は、秘書に言われましたね(笑)。やっぱり少しパワーが出るようにと、それで「きれいなパステルカラー」からはちょっと脱皮しました。それで今のようなハッキリしたピンクを着ることが増えましたね。お陰で男性議員にこんなこと言われましたよ「福島は貧乏でかわいそうだ。服を一着しか持ってない」って。同じ服に見えるみたいね。
井形 ああ、男性はねー(笑)。ちなみに、お洋服というのは普段ご自分でお買いになるんですか? それともスタイリストさんとかが揃えるのか?
福島 スタイリストさんなんていませんよ。全部自分で買います。
井形 どちらで……? 党首になられてお忙しいから、お買い物っていっても、私達のようにバーゲンだから行こうってわけにもいかないのでは?
福島 行ってますよ! バーゲンの日を調べて(笑)。私、あんまり高いのは着ないんです。いやもちろん、新しい服を着なくちゃいけないときは定価で買いますが。バーゲンって年に2回ぐらいあるじゃないですか。それに目をつけておいて、大体初日に行って買いますよ(笑)。
井形 さすが社民党の党首というか(笑)。すごい!
福島井形 (爆笑)
福島 そもそも私たち政治家の服って作業服なんですよ。街頭演説で雨の日も風の日も雪の日も、道路工事みたいなもんだから。日焼けもするし……だから大道芸人をやっているような気がするときありますよね。
井形 すると紫外線対策というのは?
福島 それは……、1年間の美白が沖縄で演説するとパッと飛ぶ、みたいな感じですよ(笑)。ふだんからファンデーション、わりとダーク系にしてますね。
井形 年中?
福島 夏はきっちり日焼け止めしてますね。だって、私たちは帽子かぶったりサングラスかけたりできませんからね。
井形 なるほどー。そうですよね。男性議員だったら雨に打たれてびしょびしょになってもかっこいいですけど、女性はそのあとのお肌のケア、ありますもんね。
福島 いや、だから滝のように汗が流れてきて日焼け止めが全部流れていくってことありますよね。
井形 どういうふうにお肌のケアされてるんですか? ひとつだけ教えて頂けますか。
福島 そうですね。パックをマメにしていることですかね。夏は日焼け止め……でも、追いつかないですね(笑)。1998年の夏に最初に立候補したのですが、うっかり日焼け止めを塗ってなくて、真っ黒になりましたねー。
井形 うわー、あせりましたでしょ?
福島 あせりました。でも心に残る街頭演説もありましてね。それこそ雪国では、吹雪の中で街頭演説をしたりとか、災害救助に行くと、それこそ長靴で駆け回るとか、地震の後に入るとか、そういう感じですね。寒いの暑いの嵐だの雪だの、言ってられないですよね。沖縄で夏、街頭演説やると、もうフライパンの上の目玉焼きのような感じですよ。
井形 うわー!
福島 街宣車って鉄板じゃないですか。だからフライパンで「ジューッ」って焼かれる感じで(笑)。深窓の令嬢ってわけにはいかないですね(笑)。

小泉首相は
女扱いがうまい!?

井形 私ひとつ聞きたかったのが、国会で福島さんが小泉さんに非常に突っ込みますよね、あれ心地いいんですよね、言葉もとってもリズミカルで。で、私思うんですが、小泉さんって実はあれを楽しみにしてるって雰囲気ありません?
 なんかね、ガンガン言われても、他の議員のときにはブスッとされてるんだけど、福島さんのときってニタニタしてるような感じがするんですけど(笑)。
福島 いやー、どうでしょうかね……ウーン。
井形 親愛の情を示してられるというか……。
福島 ああ……。それはちょっとよくわからないですね。でも、予算委員会でガンガン突っ込んだあとに、実はテレビがその日入ってましてね、彼が握手を求めてきて、でもガンガンやったあとに握手っていうのも。
井形 福島さん、後ずさりされてましたよね?
福島 にこやかに握手したほうがいいのか、握手しない方がいいのか。でも人が握手しようってしてるのを無視するのってひどいじゃないですか。
井形 ええ、ええ!
福島 だから握手しましたけれど、見てる人はちゃんと見てるから、「福島さんあれはすぐ握手しないとダメだよ!」と自民党に言われる、社民党の人には「福島さん、小泉さんと握手なんかしちゃダメだよ」って言われる、握手ひとつとっても政治的だと思いましたよね。
井形 なるほどね。
福島 でもね、テレビが入っていない次の予算委員会のとき、彼握手を求めてこなかったから。自民党って「人たらし」っていうか、そういうところがあって、さっき言った党首が全員集まるときって、けっこうあるんですが、みんな男の人で大きいじゃないですか、そういうとき、小泉さんが「福島さーん、真ん中にいらっしゃいよ僕のところへ」って、いうようなところがあるの、記念撮影のときなんかに。
井形 小泉さん流デリカシーですね。
福島 変なふうにいうと、女であるということで大事にしてもらっている面が、あるのかもしれないけれど、私としてはそういう次元ではなく、ガンガン議論して、まっとうなところでやろうとは思っていますけどね。

政界は
「権力のある芸能界」

井形 国会って男性社会じゃないですか。おじさんたちがずらーっとで。そんな中に8年前ですか、参議院議員となって最初に入ったとき、どういう印象を受けられましたか?
福島 たしかに男性社会なんですが……、法律家というのも男性社会じゃないですか、裁判官・弁護士・検察官……男性が多かったので、私自身はそのなかで自分で子育てしながらお弁当作って働くという暮らしをやってきたのでね、それほど違和感は持たなかったかもしれません。むしろ、政治の世界って「権力のある芸能界」みたいなところがあって……。
井形 あ、たしかにありますね。
福島 華やかなようで前近代的、実力主義のようで男尊女卑、胡散臭い人が多くて巨額な金が動いて、二世三世議員が幅をきかすが実力主義というような。それでいて庶民に愛されないとダメな人気商売……いろんなところで似てるところがあるわけですよ。
 ですから男尊女卑のようなところがある反面、すごく実力主義のところもあるので、頑張って質問すればそれはそれで評価をされるという部分もあるので。社民党のなかで私自身は、幹事長をやり党首をやりということで、私自身が女性差別を受けるということはなかったかも……いやいや、考えてみれば、ありましたね。
井形 どんなことです?
福島 組織的犯罪対策三法案……いわゆる盗聴法などについてガーッとやるじゃないですか、そのときに自民党の議員から「みずほちゃん、女の子なんだからおとなしくしなさい」って言われたときは、……もーっ!……なんというか笑い転げるというか。その感覚のズレにね、
みずほちゃんって何よ、ていうのもあるし、女の子って何よ、ていうのもあるし、こういう風に思ってるのねって。
井形 確かに、いい年の女性をつかまえて女の子ってねぇ。
福島 まともな人もいるけれど、今の企業には見つからないようなセクシュアル・ハラスメントの言動をする人もいます。

自民党議員との
意識のズレ

井形 それともうひとつ聞きたかったのが、福島さんって今までいろんな男女の法律相談を受けていらっしゃったわけですよね。男性として、バツイチの小泉さんってどう思われますか、かっこいいじゃないですか。小泉さんって。魅力的ですか?
福島 いやー……私は、離婚は悪いとは思わないけれども、んー……。人生はその人が選んだもので、いろんな生き方があっていろんな幸せがあると思っているので、それはいいと思っているんです。ですが小泉さん個人がということでなく、政策面で私が思っているのは、あまりにも生活実感がないのではないかと。パートや派遣や契約社員や、雇用の問題で、質問をすごくやってきたわけですが、2、3年前ですといくら「パートはこんなに大変なんだ」と言っても、自民党の席から「正社員になればいい!」と野次が飛んで、……これ、ダメですよね?
井形 ええ! とんでもないですよね。
福島 私が言いたいのは、いろんな生き方があっていいんだけれどもね、いま5世帯に1世帯が年収200万円以下、で、国立大学の授業料はいま年間54万円なんですよ。年収200万円の家庭がどうやって54万円の授業料の大学に子供をやれるのかとか、子供たちの教育の格差の問題もある……。
井形 深刻ですよね。
福島 そうです。つまり、親の財布の大きさが子供に反映する。そういうことへのリアリティっていうのが、皮膚感覚として国会のなかで弱い! っていうのは感じますよ。「正社員になればいい」と言う野次が飛んだとき。「いま正社員になればいいと言う野次が飛びましたが、正社員になれないから問題なんですっ!」てやり返しました。……そうでしょう?
井形 ええ。(自民党長老議員は)そこらへんがわかってらっしゃらない。

夫が政界入りするなら
社民党以外は認めません

井形 では、こういう人に社民党にきてほしい! っていうタイプを教えて欲しいんですけど。
福島 バッジを付けるとか権力を持つことに意味があると考えるのではなく、この社会を多くの人にとってより良いものにしたいという情熱がある人、というふうに思います。
井形 でも頭が悪い人はいやですよね? 要領が悪いとか?
福島 そうですねぇ……でも、愚直っていうのは重要かも。どっちにいけば得か損かとか、右往左往するのが一番良くないから。少々頭が良くなかろうが愚直であろうが、いいんです。政治家はもしかしたら、愚直で要領が悪いぐらいのほうが転向しなくていいかもしれませんよ。一番良くないのは、すれっからしになって、これはこういうもんだ、というふうになって。国会議員であることが重要になって、どうやればうまく立ち回れるかばかりを考える……それはよくないですよ。愛と平和……ビートルズかって言われそうですけど(笑)。
井形 もし、ご主人が議員になりたいって言ったらどうしますか?
福島 あ、いいと思いますよ。弁護士だし、即戦力になるし、それはまったく構わない。
井形 社民党以外に行っても……?
福島 いや他の党はちょっとダメですね。他の党に行くんなら離縁しますよー(笑)。ありえないですしね。
井形 やはり社民党にきて、福島さんを支えてもらいたい?
福島 今も十分支えてもらってますけど、でも、憲法を変えてもいいという政党だったら、根本的に大論争しないとダメですねー。「朝まで生テレビ」以上に激論しないといけないですねー(笑)。

実は恋愛体質!?

井形 福島さんは女性の問題、女性の社会進出とかにおいて非常に活躍されているかたですが、私、もし夫から暴力ふるわれるようなことがあったら、真っ先に福島さんのところに駆け込もうと(笑)。
福島 DV防止法……ドメスティックバイオレンス防止法も作りましたし。倉田真由美さんと『こんな男とは絶対結婚するな』という本も作りました。井形さんに差し上げますね(笑)。
井形 ありがとうございます(笑)。いやもうね、恋愛でもめたときとか、パートナーにバカにされたときとか、福島さんいいなーっ、頼りがいあるなっててずっと思ってたんです私。
福島 ありがとうございます。離婚弁護士でしたからね。天海祐希さん……ほどでもないですけど(笑)。
井形 でも、福島さんとくらたまさんというのが結びつかないんですけど、唯一の接点は恋愛体質ということ?
福島 えー、私、恋愛体質ですか?
井形 ええ、福島さんってすごくモテると私思いますよ。
福島 初めて聞いた! うれしい!(笑)
井形 林望さんとの対談原稿を拝見した際にね、ああモテるだろうなって。
福島 そうかなぁ。男っぽい性格だから、男友達は一杯いますけどね、食事したり楽しくわいわいやる人は山ほどいるんですけど、 恋愛体質だとは思ったことなかったなぁ。
井形 いや、絶対そうですって。福島さん、かわいいですよ。
福島 ほんとに? うれしい! でもなぜ、今までみんな踏み込んでくれなかったなぁ(笑)。なんでだろう。
井形 そんなところがかわいすぎるから(笑)。

こう見えても
義理人情の九州女です

井形 国会のなかに居眠りじいさんみたいな議員サンいますけど、ああいう人でも、福島さんだったら相手の心を氷解させるんじゃないかと。
福島 ありがとう! そういえば私、議員宿舎が隣の青木幹雄(自民党)さんと、「一緒に行きましょう」って国会に同伴出勤したことあるんですよ(笑)。
井形 同伴出勤(笑)。
福島 でも、そのときちょうど自民党がもめてるときで、国会に着いて、まず青木さんが車から降りるじゃないですか。すると記者がわーっと集まってくる。そこで次に私が降りると、いったい何? って思われますよね。それはちょっとまずいかと。
 特に幹事長になってから以降は、余計に政治的な目を気にするようになりましたから。食事行くのでも、自民党からではなく、まず野党の人と行ってから……とか。
井形 また小泉さんの話になりますが、もし小泉さんに食事に誘われたらどうしますか?
福島 (議員を)辞めたら、いいけれど、いまは教育基本法とか国民投票法案で対立しているときにね、食事すること自体はいいけれども、それが表沙汰になってしまうと、国会であれだけ激しくやり合っているのに裏でつながってたのか、と誤解される恐れもあるわけでしょう。やっぱりそれは違うから。本気でやってることだから。
 小泉さんと、楽しくオペラや音楽の話をするのはきっと楽しいと思うんです。美味しい食事をしながらね。ちょっとロマンチックが入ったりしてね、肩が凝らなくてきっと楽しいんですよ。でもそれが政治とは思わないですからね。
井形 お話伺ってて、亀井(静香)さんとすごく話が合う気がするんですけど。
福島 あの方はもう自民党を離れてますものね。基本的に義理人情なんですよね。死刑廃止議員連盟にも入ってるしね。
井形 私も先日対談させて頂いたんですけど、実現したい社会像がすごく近い感じを受けました。
福島 亀井静香マイナス利権、だったらもっといいんだけど(笑)。合うところは合うんですよ。「政治は人が血と涙を流さなくていいようにするためにあるんだ」というところは似てるんです。私、宮崎出身なんですが、こう見えても私も義理人情に厚い九州女なんです。
井形 私も個人的に何かあったら福島さん、相談にのって下さい(笑)。今日はどうもありがとうございました。
福島 こちらこそありがとうございました。それにしても「モテる」って言われたのは本当に嬉しかったなぁ(笑)!